らうんどあばうと

ラウンドでアバウトでランデブー

【詩】パン人間

俺はパン人間だ。そうじゃないと言う人間もいるだろうが俺はパン人間だ。俺が俺のことをパン人間だと決めたからパン人間なのか、それともそれより前から俺はパン人間なのかは知らない。俺はパン人間でほかの何でもないのだから、パン人間じゃない俺について何も知っていないのはもちろんのことだ。俺はパン人間だから、よくある形の人間じゃない。しかしそう思ってくれても構わない。手と足があって頭がある、そう思ってくれても構わない。手と足があって頭がある、そう思ってくれても支障が出ることはない。便宜上のことではあるが。俺がパン人間であるようにさまざまな人間がいることもたしかだ。
例えば、梅の種人間を知っている。ぶよぶよした梅肉は土で汚されていて、一部分が大きくめくれあがっている。そこには乾いた脳髄のような種が見えていて見るものの気分をひどく害する。歩くごとにからからと音がするのは、発芽を迎えることなく死んだ種子が外殻とぶつかるからだ。これほどに奇怪な見た目をしているのに梅の種人間に気付くものはごく少数に留まっている。それは何人間でもない人間があまりに多いからだと俺は考える。こいつらは不思議さの前では緘黙に徹して疑問を呈することをしない。こいつらが立っている舞台には血が流れていない。はじまりを知らないし終りも知らない。だがこいつらは忘れやすく延延と同じ役回りをくりかえしている。区別のつかない符牒をつくることにしか精を出さない。こいつらの耳は外の音を聞くためにあって、声は台本に書かれてあることを発するためにある。梅の種人間のようなものがつくる音を聞くためではなく、話しかけるためではない。こういう人間の額に刻まれた皺は贋作のような出来になる。内からのものではないからだ。
そして俺はパン人間だ。パン人間の俺にはしなくちゃならんことがある。ちぎってちぎってちぎらなくちゃならん。まずは両脚をちぎって腕をちぎってさいごには頭をちぎらなくちゃならん。それで頭を虚ろに垂れるようになったらもう俺はパン人間じゃなくなって完成する。