らうんどあばうと

ラウンドでアバウトでランデブー

【2020/12】

胸元が大きく開いたコート、あれは暖かいのだろうか。なぜかボタンをとめずマントのようにして歩いている人が大勢いるが、ボタンをぜんぶとめたとしてもガラ空きになっている胸から風が入ってきそうに思うし、あれほど大きくて重そうなのに防寒性が見合っていない気がするけどどうなんだろう。

僕に対して多くの他人が抱く印象は多分:ストレンジ。

だが僕は奇人変人の枠には入れられないだろう。奇人変人という枠にはそうではない人間を凌ぐ程度のなんらかの能力がある人間という仮定が暗黙のうちに置かれており、僕はそれを満たさないからだ。僕はただストレンジな印象を与えるだけだ。

上品に整えられてシワのほとんどないシルク地のスカートを履いて、ヒールを鳴らしながら甲高い声で男と話す年増。

レジの若い女の丹念に磨きあげられた指の爪が照明を受けて桃色に火照る。

あるものに10のプラスがあったとして、もしさらに1のマイナスがあったとすれば僕はその1のマイナスのために10のプラス全てを無視するようになり、あるものに対して10のプラスまで含めてぐちぐちと文句を言う。

社会的に良いこと、素晴らしいとされていること、受賞、社会貢献、etcをした人間に対して「え~すごい!」と言ってのけたときの充実感。僕だってそういうことを言えるのだ。全く自分が誇らしい!「え~すごい!」と言うことが共同体への参加資格を得ることになるのだ。胸を張って鼻息でも出そうという気分になる。その人間がどんなことをしたかはどうでもいい。「え~すごい!」と言うことだけが肝要なのだ。とにかく言えばいい。そして参加資格を得ていることが大切なのであって参加することは必要ではない。そもそも誰も参加していないし、参加資格があるからといって何に参加することになるかも知っていない。資格を持っていることだけに意味があって、資格を持っている人間は資格を持っている人間に対して規則違反以上のことをしない。

Amazonの欲しいものリストの大部分を消去した。かなりの数にのぼっていたが、欲しくないものを欲しいものリストに入れておくのはおかしいものである。

「俺には意味がある!」往来の多い街中で気違いが叫んだ。「俺には意味がある!俺は意味を見つけてやった!おまえらには意味があるのか?あるとすればそれは責任があるからだろうが!俺は責任をぶっ壊してやった!責任なしで俺には意味がある!」気違いの周りにだけ空間が広がっている。「さあ並べ!俺がおまえらの責任をぶち壊してやる!とっとと並べ!一列に並べ!行儀良くだ!」気違いは乱暴な身振り手振りをしている。むやみやたらに踊っているようにしか見えない。警察官がふたり来た。誰かが通報したのだろうが、気違いが喚きだしてからおそろしくはやい到着である。気違いは警察官に囲まれてからも大声を出しつづけていて、さらには警察官を振り切ろうともしていたが、突然「ぐっ」と言って顔を真っ赤にしてその場で気絶した。警察官はどこかに連絡をしている。おそらく気違い病院にでもかつぎこまれるだろう。

さまざまな人間がいたほうが将来に渡っては結果的に人間種の価値になるのだという理由で殺されていない無価値な僕。

こんなことをキーボードを叩いて入力することの馬鹿々々しさ、くだらなさ。それは想像の及びがたいほどである。