【詩】パン人間
俺はパン人間だ。そうじゃないと言う人間もいるだろうが俺はパン人間だ。俺が俺のことをパン人間だと決めたからパン人間なのか、それともそれより前から俺はパン人間なのかは知らない。俺はパン人間でほかの何でもないのだから、パン人間じゃない俺について何も知っていないのはもちろんのことだ。俺はパン人間だから、よくある形の人間じゃない。しかしそう思ってくれても構わない。手と足があって頭がある、そう思ってくれても構わない。手と足があって頭がある、そう思ってくれても支障が出ることはない。便宜上のことではあるが。俺がパン人間であるようにさまざまな人間がいることもたしかだ。 例えば、梅の種人間を知っている。ぶよぶよした梅肉は土で汚されていて、一部分が大きくめくれあがっている。そこには乾いた脳髄のような種が見えていて見るものの気分をひどく害する。歩くごとにからからと音がするのは、発芽を迎えることなく死んだ種子が外殻とぶつかるからだ。これほどに奇怪な見た目をしているのに梅の種人間に気付くものはごく少数に留まっている。それは何人間でもない人間があまりに多いからだと俺は考える。こいつらは不思議さの前では緘黙に徹して疑問を呈することをしない。こいつらが立っている舞台には血が流れていない。はじまりを知らないし終りも知らない。だがこいつらは忘れやすく延延と同じ役回りをくりかえしている。区別のつかない符牒をつくることにしか精を出さない。こいつらの耳は外の音を聞くためにあって、声は台本に書かれてあることを発するためにある。梅の種人間のようなものがつくる音を聞くためではなく、話しかけるためではない。こういう人間の額に刻まれた皺は贋作のような出来になる。内からのものではないからだ。 そして俺はパン人間だ。パン人間の俺にはしなくちゃならんことがある。ちぎってちぎってちぎらなくちゃならん。まずは両脚をちぎって腕をちぎってさいごには頭をちぎらなくちゃならん。それで頭を虚ろに垂れるようになったらもう俺はパン人間じゃなくなって完成する。
【2020/5】副題:就活
基本的に毎月書くこともとくに無いのでこれからは副題を設定して少々それについても書くことにすることになるかもしれない。まあ多分僕はこのまま年を取り続けるだろうがだんだん社会と疎遠になっていくだろうと思う。それは仕方のないことだと思う。常識がわからなくなってくるだろう。そもそも何が原因なのかもわからないだろう。間違ってしまったとは思わない。社会はこちら側とあちら側に分けられるようにできていて、僕が単にこちら側というだけなのであるから。できると思っていたことができなくなってくる。
僕のような人間は当然就活と相性がわるい。僕はまず自己アピールができない。面接の場でも自分ができないことの方を強く出してしまうのだが、これがまず就活においてはよくない。それに僕はへらへらしている。これもよくない。やる気がない人間と見なされる。実際そうである。言いたくないことも多すぎる。変に隠すと面接全体の中で不整合になって面接官が違和感を持つようになる。まあたしかに僕が落とされるのは正当なことだと思うけどもね。就活を楽しそうにやる人間が一定数いるが、これも分らないことではない。ゲーム感覚でもあるし、内定が何個かもらえれば満たされるだろう。でも僕は邪魔なだけで楽しいものとは思わなかったな。エントリーシートを書くのは初めの頃は面倒だったけれどでも別に慣れてしまえば最初に書いたのを改変すればいいだけだったから、やはり一番邪魔だったのは面接と来年から僕も社会人になるのだという諦念。一次面接で落とされたときもあったけれど30分で何が分るんだという気持ちより、人事は僕のことよく見抜いたなあという感嘆の方が大きかった。就活なんてそれほど大したことじゃないと思ってたから落ちてもほとんど他人事のように思えた。大したことというのは理屈では分るけども、納得はしてなかった。緊張してないのは可愛げがないかなあと思ってわざと緊張しているような振りもしたけどそれが災いして落ちたこともあった。3月に内定が出そうなチャンスがあった。面接官は若手と中堅の二人だった。若手の方は喋らず、後学のためにいるようだった。中堅の社員の方はガタイがよく、おそらく学生時代はラグビーか何かをやっていそうな人だった。いるだけで存在感がありそうな人間で、僕の苦手な人間だったから見るなり気分が萎えてしまった。こいつは多分結婚していて、二人ぐらい娘がいそうだ、休日はまだ小学生に入ったばかりの長女と過ごすのだろう、水族館に行ったりして夕方は買い物して帰るのだろう、奥さんは女らしい見た目をしていて多分この人のガタイが気に入ったんだろうなどと面接中に考えてしまって面接自体は一問一答になった。就活で面白いもののひとつに逆質問というものがある。面接の最後にこちらから質問をする時間がとられるのが通例で、これは逆質問と呼ばれている。この時間も面接の一部で質問内容で意欲を見せることが必要らしい。そこで多くの就活性はおそらく全員似たような質問をするわけだが、それを思うと人事もいちいち丁寧に答えているのはすごいなあと感じる。例えば検索にかければすぐわかるような質問をする人間もいるわけだが、そう言わずにちゃんと答えるのはかなり精神力を要するものではないだろうか。もちろんそういったことを質問をすることが無意味だとは言わない。実際に会話の中で聞けば内容が同じだとしても感じ方は違うものだということは僕だって分っているつもりである。はじめからおわりまでずっと逆質問をしてくださいといった面接も意外とあるが、30分のうち15分過ぎたくらいで質問が思い浮かばなくなったことがあった。逆質問は関心を持っているかどうかを比較的見抜きやすい形式だと思うけれども、関心のなさが如実に出たものだった。就活はある意味で客観性を以て自分の人間性の一部を伝えられるものだと捉えることもでき、僕は少しおかしな人間で噛み合わない人間だということを教えられるのである。こういう僕は社会と疎遠になっていくだろう。
【曲感想】pinkie / BUMP OF CHICKEN
pinkie ★★★★★
『HAPPY』のカップリングです。A面同様に歌詞が素晴らしい曲ですね。COSMONAUTの時期らしい歌詞で、他の曲とも共通する部分が多いです。歌詞だけでなく、メロディラインも綺麗でカップリングのままでアルバムにも入らないのはもったいない曲です。中盤まではほわほわしていてラストのサビに合わせて音が分厚くなるある種劇的な展開はやられてしまうでしょう。ほかにもカップリングにおさまっている曲はありますが、特にこの曲についてはシングルとも引けを取らない、BUMPの代表曲にもなりえるほどの曲だと思っています。長めのアウトロからフェイドアウトする珍しい終わり方はカップリングらしいと言えるかもしれません。pinkieというタイトルの主題も良いです。歌詞の着想自体は掴みにくいものの、聴き手側にとっての個人的な解釈はしやすくなっている深長な歌詞は良い意味で上手いと感じます。固有の人や物を登場させずに時間を描くことで具象的でない物語が感じられて、あーやっぱりBUMPの歌詞って良いなあと思えます。
隠しトラックは『ラブ・トライアングル 君と僕と委員長ver.』は途中までの予想を裏切られる展開になりますね。聴いたことのある隠しトラックの中では結構インパクトが大きいものでした。
- アーティスト:BUMP OF CHICKEN
- 発売日: 2010/04/14
- メディア: CD
【CD感想】OTRL / 奥田民生
調べてみたらこれ元々はライブ音源で,ミックスしなおしたものらしいですね.シンプルなアルバムで純粋に歌のメロディを楽しめます.韻を踏んだノリの良い曲が好きな人は好きでしょう.『最強のこれから』は力強く,分厚いサウンドがグッドです.
1.最強のこれから ★★★★★
Cメロのギターが止む部分からサビに入っていくのが気持ちいい.これと『解体ショー』はヒリヒリしているようで実は緩い,聴いていてバランスの取れた高揚感を持てるところが良いです.
2.わかります ★★★★☆
3.えんえんととんでいく ★★★☆☆
4.RL ★★★☆☆
5.音のない音 ★★★★☆
6.たびゆけばあたる ★★★☆☆
7.ひとりカンタビレのテーマ ★★★☆☆
8.かたちごっこ ★★★☆☆
9.Room 503 ★★★☆☆
10.解体ショー ★★★★★
歌詞のテーマ性も相まって,エンディングテーマのような雰囲気があります.シンプルなギターサウンドの上で押し寄せるようなサビは胸が熱くなります.
11.暗黒の闇 ★★★★☆
結構好きです.単調ですが,クラップが入っているのが効果的だと思いました.
【詩】海
ここで待っている。 だが何を待っているのだろう? 白い流木、欠けた貝殻。乾いた音を立てるものたち。 待つためには目を閉じなくてはならぬ。そのときが来ればそっと触れて教えてくれるはずだからである。 流美な言葉をただ重ねればよいのだろうか? 書くのに丁度よく、目障りにならないように整備されたものを? ああ、大切なのは画策をしないことである。 意味を画策しないことである。 (結晶だろうか?いや、そうではない。 そうではなく、散逸である。) どうやら様様なものを真に受けすぎたようである。 空間を、時間を、存在を真に受けた。 そして数を真に受けた。あらゆる数を。 真に受けてしまった僕はやり直さなくてはいけないようになる。 構築することを。そうだ、はじめのはじめから。 ああ、夜空のほとんどは暗闇に覆われていて天体は幽かにしか認められないのに、どうして星星は満ちみちていると思わずにいられないのだろう? 僕はそういうものを持たない人間である。星星に随伴するこの図形のようなものを。 病を起して長いこと臥している女が体の向きを変えたときに目にした月明りのようなものを。 女はそれを見てこれまでに受けた全ての印象を思い起したはずである。 春の陽気が肌を撫でるさまを。風の朝の静かな予感を。 そして何よりもいのちを思い起しただろう。みずからのいのちを。 僕はそういうものを持たない人間なのであるから跪いたとしてそれはくずおれただけになる。僕はこういう人間である。 (光は一切なく、波が水平線からひたすらに打ち続く海のことを想像できるだろうか? 波は打つたびに暗闇を攫い、海は漆黒を深めていく。こういった海のことを? 想像できたらどうする? 想像できたら⋯⋯波の打ちつける音。)
【2020/4】
コロナウイルスが凄まじい影響を及ぼしていて、日本も世界も困っていますね。そして片隅で僕も困っているわけなんです。社会のことを綺麗で完璧な円のように考えていた。だがどうだろう。歪で見れたもんじゃない、凹みが数え切れないくらいある。誰も何を作っているのか分からないのだ。誰一人として。あちらこちらで勝手にこねたり壊したりしている。社会はそんなようだと思う。誰も監督することは出来ない。誰もが俯瞰できない位置にいるためだ。一体その中の誰が監督することができよう。一人一人が見える範囲で直線をつくろうとするのが賢明だと考える。そうすれば直線と直線が交叉した部分にだけに歪みが生じるのであって、今の曲線が混雑している状況よりは随分ましだとも考える。誰もが直線を作ることに集中し、角ばった箇所で更に直線をつくることを繰り返す。そうすれば遠目から見たときに円のように見えることになる。被害者のみしかいないのであれば、加害者はいないことになるがそれは被害者がいることに矛盾しているからはじめにできるのは加害者である。そして社会をつくることは加害することである。僕も当然加害することは避けられない。僕は綱渡りをする。僕自身が入念に準備してきた綱渡りである。落ちても大丈夫なような綱渡りである。下に綿を詰めておいて、その上に綱を繋ぐのである。そういう綱渡りをする。書くのが面倒だ。
【CD感想】Union / Yes
ハードなポップが集まったアルバムです。多くの人に強い印象を生むような曲があるとはいいがたいところだと思いますが、『Lift Me Up』は王道で馴染みやすく、『Saving My Heart』はメロディが綺麗で一番好きな曲です。海外のバンドが作る曲には蛍光色をして耳に強く反射するような曲が多くて、Yesもそういうイメージがあって、実際このアルバムもその種の曲は多いと思います。『Saving My Heart』はこういう意味では聴きやすいし、メロウです。
1.I Would Have Waited Forever ★★★★☆
2.Shock To The System ★★★☆☆
3.Masquerade ★★★☆☆
4.Lift Me Up ★★★★★
結構『Saving My Heart』と展開が似ているところがあると思います。ハードに寄せたのがこちらでポップに寄せたのが『Saving My Heart』のような感じでしょうか。
5.Without Hope You Cannot Start The Day ★★★☆☆
6.Saving My Heart ★★★★★
7.Miracle Of Life ★★★★☆
8.Silent Talking ★★★☆☆
9.The More We Live - Let Go ★★★☆☆
10.Angkor Wat ★★★☆☆
11.Dangerous ★★★★☆
それほど聴いたことはありませんが、Yesはこういう耳が眩しくなるような曲を作る印象があります。
12.Holding On ★★★☆☆
13.Evensong ★★★☆
14.Take The Water To The Mountain ★★★☆☆
15.Give & Take ★★★★☆