【詩】海
ここで待っている。 だが何を待っているのだろう? 白い流木、欠けた貝殻。乾いた音を立てるものたち。 待つためには目を閉じなくてはならぬ。そのときが来ればそっと触れて教えてくれるはずだからである。 流美な言葉をただ重ねればよいのだろうか? 書くのに丁度よく、目障りにならないように整備されたものを? ああ、大切なのは画策をしないことである。 意味を画策しないことである。 (結晶だろうか?いや、そうではない。 そうではなく、散逸である。) どうやら様様なものを真に受けすぎたようである。 空間を、時間を、存在を真に受けた。 そして数を真に受けた。あらゆる数を。 真に受けてしまった僕はやり直さなくてはいけないようになる。 構築することを。そうだ、はじめのはじめから。 ああ、夜空のほとんどは暗闇に覆われていて天体は幽かにしか認められないのに、どうして星星は満ちみちていると思わずにいられないのだろう? 僕はそういうものを持たない人間である。星星に随伴するこの図形のようなものを。 病を起して長いこと臥している女が体の向きを変えたときに目にした月明りのようなものを。 女はそれを見てこれまでに受けた全ての印象を思い起したはずである。 春の陽気が肌を撫でるさまを。風の朝の静かな予感を。 そして何よりもいのちを思い起しただろう。みずからのいのちを。 僕はそういうものを持たない人間なのであるから跪いたとしてそれはくずおれただけになる。僕はこういう人間である。 (光は一切なく、波が水平線からひたすらに打ち続く海のことを想像できるだろうか? 波は打つたびに暗闇を攫い、海は漆黒を深めていく。こういった海のことを? 想像できたらどうする? 想像できたら⋯⋯波の打ちつける音。)