らうんどあばうと

ラウンドでアバウトでランデブー

【詩】香水:銀色の空気

憶えてはないでしょうね。ずっと前のことで雨の日だったから憶えているはずないもの。からっと晴れて気持ちの良い日に起ったことしか憶えてないんだから、いつも……。大人になってしまうと不思議なものね。そうよ、おかしなものよ、大人になるってことは。幼いときに想像していたことは何ひとつ甲斐が無かったわ。どんな想像だったかは思い出せないけれど、そういうものだったことは分るの。でなければ思い出すはずだから。私は思うの。思い出せない過去は未来なんだ、って。そう思うの。思い出せない想像のどれもが未来なの。だから思い出せないのね。未来のことを憶えているなんておかしいもの……。たくさんの人がいてたくさんのことを考えている。言葉にできること、できないこと、しようとしないこと。記録に残ること、記録に残らないほとんどのこと。時間なんて大して意味があるものじゃない。海、岩、砂漠、森、大陸……。今もどこかで私のことを待っている人がいるの。風の強い雨の日に、手足を冷たくしながら私のことを待っている。どこで待っているかはどうしても分らない。そろそろ行かなきゃ。行ったら本当のことが分るかしら。いいえ、分らなくてもいい。眠りに落る前の素敵な思いつきは朝になれば銀色の靄になっている……。