らうんどあばうと

ラウンドでアバウトでランデブー

【詩】ある男

生活の中の捨て置かれた時間で、様様な事物の途中にある合間で、
僕はこうして始めることをします
僕はこれを悲しむべき悲しいことだとは思います
生活は僕の体力を挘り取って始めるのに要するものさえ残しません
また始めたところでそれも詰り僕の不安を込合いさせるだけではないのかとも思います
それに抑抑僕は始めることに向いていませんから
僕は始めるには余りに貧しいのです
僕は鉛筆で線を繋いで、でたらめな模様を描きます
小さい頃にそうやって紙を汚したのはなぜでしょうね
今では恐ろしいことを思わないようにするためになってしまいました
僕は定まりを好みません
しかし、生きることを定まりと考えたのは間違いでした
生きていることは変化です
変化を伴わない変化もあることを知りましたが、死は果してどうでしょう
死は定まりで凝固なのでしょうか
僕はそうは思いません
死んだ僕はやはり定まりを持たないでしょう
僕は死ぬことを生きていないことだと考え、死ぬことを生きていることのように考えます
僕は冷えた手を触れ合わせます
生きていることを確かめるためにはそれで十分だからです
そして一人の男のことを考えます

男は孤独であったが、無論始めからそうあったのではなかった
孤独は始めからそうある場合にのみ孤独なのであると男は理解していた
したがって男の孤独は半端であった
男の生活は他と似たり寄ったりで一見同じようであったが、
完成されていない孤独の中に住居を構えていることが他との異なりであった
男はそこでまだ言葉を与えられていない抽象に言葉を与えることをしていた
抽象は言葉を与えられると、返礼として男に孤独を持たせた
そうして男は自らの孤独を深めていった
また、大きさの合っていない言葉を着せられているものを見つければ、もっと適した言葉を与えたりもした
男は段段とこれが自分の仕事だと解するようになり、
孤独の中で過ごせる残りの時間をある一つの困難な仕事に費やそうと考えるようになった
それは愛に、愛することに言葉を与えることであった
男は愛を考え始められるほどには孤独を深めていたから、この誰も関心を持たない仕事に手をつけることにした
男は少し前から心に現れるようになった愛することに対して言葉を与えようと試みた
男は幾多の方法で試みたが、愛は拒むことを止めなかった
愛はすぐに言葉の影に隠れてしまい、中身の空いた言葉だけがぽつねんとするのだった
男は自分の死が近付いていることを感じ、仕事がついに終わらないことを悟った
男はいつか愛に見合う言葉が芽吹くようにと、これまで愛に与えてきた言葉を全て庭に埋めた
しかし芽吹くことはないだろうとも悟っていた
死を控えながら男の中の愛はより広大になっていた
間もなく男は死んだ
男は死ぬことを恐怖だとは思わなかった
男の死は生と関りの無い死ではないからであった
男が死ぬことは生きたからであって、愛を考えることで獲得した死であった

僕はその男がどのように死んだかを考えます
僕は男が生の中で死を育み、最後には見事に実らせたとも考えます
地中に置去りにされた言葉を誰が再び取り出せるでしょうか
男の言葉は朽ち果て、使いものになりません